母校でデート
第二話  「田んぼのあぜ道で」


校舎の表玄関前の方に向かい少しばかり速足になっていた。

「あっ見て、ほら、学校の前に広がってる田んぼでさ、美術の
先生が写生会を開いて、みんなで画板を担いで狭くて細い
あぜ道を渡りながら、好きな場所を探してさ」

「そうだったわね、アタシ田んぼに落っこちそうになって」

「木沢って奴が落っこちて泥んこなって、みんなにバカにされて
泣いてたよな~」

「可哀想だったわよ、アタシと加代ちゃんで手を伸ばして助け上げ
たんだよ、お蔭で運動靴が泥んこなったわよ」

「ねえ、もう一回、あぜ道を渡ってみない?」

「うん、いいけど落ちないように気をつけなきゃね」

「そうだね、僕たちもう中学生じゃないもんね」

「アタシは未だ未だ若いわよ、あなたハゲてるし、ぷふふ」

「いいよ、それは認めるよ、だけど、ゆうこさんはずっと今も
変わらずとっても綺麗だよね、ほんとだよ」

「あら、な~んにも出ないわよ~、アハハハ」



学校の前に広がってる田んぼに向かって二人は歩き出した。
少し肌寒いけれど爽やかな春の風がそよそよと渡っていた。

でも陽射しが眩しくて気温も上がり肌寒かった風も段々にぬるく
なって春はもう近い、そんなお昼どきだった。

冬特有の澄んだ空気の匂いと枯れた雑草や田んぼの泥臭い匂いが
絡まり、春の訪れを邪魔しようとしているみたいに何とも言えぬ、
然し自然の心地良い息吹きを漂わせながらすぅ~っと鼻に抜ける
ように清々しく立ち込めていた。

「あっここ土が崩れてる、ちょっと待って、手をつなご」

「ありがとう、ハイヒールでなくて良かったわ」

「だって母校でデートだもん、ズックや運動靴の方がいいよ」

「そうね、懐かしい~、運動靴なんて、ねえ~」

田んぼの脇を流れる狭い水路に沿った今にも崩れそうな細いあぜ道を
二人は歩いて行った。

チョロチョロチョロ~~~

水路を流れる水が陽射しを浴びてキラキラ煌めきながらまるであの頃
へと誘うかのように心地良く流れていた。

「ゆうこさん、ほらあそこに小さなメダカが居るよ~」

「ほんとだ、あの時も男子たちは写生サボってザリガニ採りしてた
でしょ、先生に見つかって怒られてたじゃない」

「うん、でも僕はちゃんと絵を描いてたよ」

「アタシだって、ふふふ」

「ゆうこさん、ゆうこさん、こっち見て~、ほら今度はちっちゃな
カエルが二匹も居るよ、あれは夫婦かな?」

「変なのぉ、カエルなら”番い”(つがい)でしょ、もう~、夫婦
だってぇ~、可笑しい~」

未だ青くない、土色をした小さなカエルが二匹じっとして並んでいた。
きっと春を待ってるかのように思えた。



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