愛してるって気持ちだけじゃ届かない
苦々しく笑った慧は、携帯のアドレスを開き彼女の名前を消去した。
「もう、俺は必要ないらしい」
彼女が、近々結婚するらしいと友人経由で流れてきた。慧にも連絡がきたのだろう。
今日は、私の新たな門出と称して飲み始めたが、まさか、こんな話になるとは思ってもいなかった。
いつもなら、絶対あの人のことは口に出さずに、のらりとかわす慧の、らしくない痛々しい様子に、私の心は苦しくなる。
慧の手の上にそっと手を重ねると、今までにない雰囲気に、彼は驚いて何度も瞼を瞬きしている。
「…急に、どうしたんだ?」
「そうね…どうしたんだろ⁈」
やんわりと手を退けようとする慧の手を、ギュと握った。
それから、慧の肩に頭を乗せて甘える仕草をする。
「おい…酔ってるのか?誰かと間違えるなよ」
「酔ってない」
戸惑う慧が新鮮で、つい調子にのってしまう。そして、長年、彼を思っていた気持ちが溢れてくる。
「ねぇ、お互い寂しいもの同士、慰めあおうよ」
ゴクリと喉を鳴らし、私を見つめる慧。
そんな慧の唇を指先で触れ、そのまま触れるだけのキスをした。
そして、彼の太腿を摩りながら耳元で
「抱いてよ」
と、囁いたのだった。