愛してるって気持ちだけじゃ届かない
手を繋いで会場入りした時から、慧はどこかおかしい。
再び手を繋いできた慧が「帰るか」とボソリと呟いた時、目の前に現れた女性に息を飲んだ。
「慧、久しぶり、元気そうね」
顔は笑っているのに、目が笑っていない彼女の視線は、繋がれた手を捉えた後、慧に甘えた微笑みで見つめる。
「美和‥先生」
「お久しぶりです」
呼び捨てにしていた過去から、現在に戻り先生とかしこまった慧に、彼女は苦笑していた。
私の知らない2人の仲が垣間見えた瞬間、胸が痛み、慧の表情を見ることが怖くて、ただ、彼女の動向を伺っていた。
「私、バツイチになっちゃた。彼は私のことを許せなかったみたい。いろいろと大変だったのよ」
目の前で左手を見せ薬指に指輪がないと見せつける姿に、心はざわつき落ち着かない。
「やだ、そんな怖い顔しないでよ。ゆっくり話したいこともあるし、いつでも連絡を頂戴。連絡先は昔のままだから」
「私達、うまくいっているので、ご連絡することはありません」
自業自得の癖に、慧を傷つけ苦しめてた癖に、悪びれもなくまた、慧を惑わすのかと腹立たしくなり、言い返したら、繋いだ手がぎゅっと握られる。
「あんたがバツイチになろうと俺には関係ない。俺にはこいつがいる。そうだろ、詩織」
見上げた時、慧は、愛しげに私を見つめ頬を緩めていた。