愛してるって気持ちだけじゃ届かない
過去を振り返って遠い目をした慧が、失笑した。
「ほんと今思えばバカだと思う。必要としてくれる限り側にいるなんて誓ったせいで、あの人に振り回される日々は、周りが見えてなかった。側に一番大事なものがあることに気がつかないで、恋に溺れる自分に酔ってたんだよな。いや、気がついてたんだ。バカばっかりするのは俺のせいだって…それでもあの人を見捨てられなかった」
聞かなきゃよかったと後悔した時、手持ちぶたさに手拭きを掴んでいた手を上から握られた。
「いい加減に曖昧な関係をなんとかしないと、他の男に持っていかれると焦っているのに、あの人を見捨てれないせいで、気づかないふりを続けてた。やっと、必要とされなくなって解放されて、どうやって口説いていこうかと考えた側で、こうやって手を握ってきたんだ。今でも覚えてる…寂しい者同士、慰め合おうってな」
慧は、いったい今まで誰の話をしていたのだ?
記憶にあるセリフを私以外にも言われたのだろうか?
耳元に口寄せた慧
「抱いて…って誘われた」
思わず慧を見る。
「…あの人の話してたんだよね」
「あっ?それはさっき終わったろ。何聞いてたんだよ。今は俺とおまえの話だぞ」