愛してるって気持ちだけじゃ届かない

『頼む、見逃してくれ』

『それが人に頼む態度かよ。どうせなら、ここで誓いな…もう2度とこの女と関わらないって宣言できたら、帰してやるよ』

『…この女とは2度と関わりません。お願いします。このことは家内にも連絡しないでください』

口惜しいそうに、唇を震わせながら宣言した男。

『透、録音したか?』

『もちろん』

録音した音をリピートして聞かせた。

『帰っていいぜ。写真と音声は消さないからな。もし、この女に近づけば、どうなるかわかるよな。おっさんの家庭めちゃくちゃに壊してやるよ』

慧の低く、迫力ある声に冷や汗をかきながら何度も頷き、手が緩められた瞬間、駆け足で距離を取って逃げた。

振り返り、子供に屈した悔しさから

『お前達の顔は忘れないからな…』

叫ぶのだが、2人は取るに足らないとばかり笑っていた。

そして、男の忘れ物を男に向かって投げつける。

『忘れ物だ』

ガチャンと道路に落ちたスマホの音に、顔を引きつらせながら壊れたスマホと財布を拾って逃げていった。

男がいなくなり、緊張が抜けた私はその場で腰砕けしゃがんで半泣き。

『…怖かったよ』

『お前、バカか⁈大人を甘く見るからこういう目に合うんだ』
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