愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
「こ、河本さん!」
振り返ると、河本さんが大げさなリアクションをした私を不審がる目で見ていた。
「悪い、そんなに驚くと思わなくて。考え事か?」
「うん……ちょっとね」
「ま、お互い環境が変わったし、いろいろと悩みも増えるよな」
「え、河本さんも?」
私の問いに、河本さんはばつが悪そうにポリポリと指先で頬を掻いた。
「そりゃまあ、今までのひとりだったときに比べたら、考え事も多くなるよ。大切な人と一緒に暮らすんだから」
「そっか……」
そうだよね、まだ一緒に暮らし始めたばかりだもの、お互いに少しずつ寄り添っていけばいいんだよね。
なにも仕事を辞めるわけじゃないんだし、涼介さんのためにもなる。
「ありがとう河本さん、なんだか元気がでたよ」
「悩むってことは、菜緒も月島さんのことを大切に考えてるんだな」
河本さんの言葉に、私は胸がすく思いだった。
河本さんと話していても、失恋のチクチクした痛みなどもう感じなかった。
もう心のほとんどの比重が、涼介さんに傾いている。
すっきりと心が軽くなった頃、夜の営業時間が始まった。
今夜は銀行員の藤井さんの予約が入っている。
「いらっしゃいませ、藤井様」
私が部屋の担当になり、玄関でお迎えした。
藤井さんは今夜仕事関係の会合があるそうで、男性とふたりだった。
「久しぶりだね、菜緒さん」
背の高い藤井さんは、艶のある黒髪をいつもきっちりセットしていて、乱れているところを見た試しがない。
紺色のスーツを品よく着こなしていて、メタルフレームの眼鏡が繊細で真面目な雰囲気を醸し出している。
スプリングコートをクロークに預け、お部屋にご案内した際に、「これ」と藤井さんから手渡された。
小さく折った紙だった。
「どうもありがとうございます」
いつもの心付けじゃない……?
不思議に思って受け取って、私は深々と頭を下げる。
振り返ると、河本さんが大げさなリアクションをした私を不審がる目で見ていた。
「悪い、そんなに驚くと思わなくて。考え事か?」
「うん……ちょっとね」
「ま、お互い環境が変わったし、いろいろと悩みも増えるよな」
「え、河本さんも?」
私の問いに、河本さんはばつが悪そうにポリポリと指先で頬を掻いた。
「そりゃまあ、今までのひとりだったときに比べたら、考え事も多くなるよ。大切な人と一緒に暮らすんだから」
「そっか……」
そうだよね、まだ一緒に暮らし始めたばかりだもの、お互いに少しずつ寄り添っていけばいいんだよね。
なにも仕事を辞めるわけじゃないんだし、涼介さんのためにもなる。
「ありがとう河本さん、なんだか元気がでたよ」
「悩むってことは、菜緒も月島さんのことを大切に考えてるんだな」
河本さんの言葉に、私は胸がすく思いだった。
河本さんと話していても、失恋のチクチクした痛みなどもう感じなかった。
もう心のほとんどの比重が、涼介さんに傾いている。
すっきりと心が軽くなった頃、夜の営業時間が始まった。
今夜は銀行員の藤井さんの予約が入っている。
「いらっしゃいませ、藤井様」
私が部屋の担当になり、玄関でお迎えした。
藤井さんは今夜仕事関係の会合があるそうで、男性とふたりだった。
「久しぶりだね、菜緒さん」
背の高い藤井さんは、艶のある黒髪をいつもきっちりセットしていて、乱れているところを見た試しがない。
紺色のスーツを品よく着こなしていて、メタルフレームの眼鏡が繊細で真面目な雰囲気を醸し出している。
スプリングコートをクロークに預け、お部屋にご案内した際に、「これ」と藤井さんから手渡された。
小さく折った紙だった。
「どうもありがとうございます」
いつもの心付けじゃない……?
不思議に思って受け取って、私は深々と頭を下げる。