愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~

「俺の部屋に行こうか、菜緒」
「えっ! あの、夕飯までご一緒させて頂いて、本当によろしいのでしょうか? ご迷惑では……」


すっくと立ち上がった涼介さんに合わせ私も腰を上げると、ご両親に聞いた。


「迷惑だなんてとんでもない! 菜緒ちゃんがいてくれたらとても楽しいわ。ね、お父さん」
「ああ。遠慮なんてしないで、自分のうちだと思って寛いでくれ」
「ありがとうございます」


優しいおふたりの言葉に甘え、私は会釈すると和室を出る涼介さんの後を追った。

涼介さんの部屋は二階で、中庭が見下ろせる大きな窓があった。
どの部屋も外の風景と繋がり開放感があって、季節や天気の変化が感じられ、本当にとても素敵な邸宅だと思った。


「すごい、綺麗に片付いてるね」


家具はデスクとベッド、それにクローゼットだけというシンプルな部屋だった。


「物がないだけだよ。滅多に帰って来ないし」
「そうなんだ」


ご両親の〝初恋の菜緒ちゃん〟とか、〝小学生の頃から思い続けていた〟という言葉が気になって、ふたりきりになるとそわそわする。


「そこに座って」
「うん」


所在なさげにドアの前に突っ立っていた私に、涼介さんはベッドに座るよう促した。
そしてクローゼットを開け、チェストの引き出しからなにかを取り出した。


「菜緒。これ、覚えてる?」


涼介さんが私の目の前に広げたのは、画用紙に描かれたお城の絵だった。


「それ……! 小学生のときの⁉」


見覚えのあるそのお城は、おとぎ話に出てくるお姫様が住んでいそうな大きくて立派な白い洋館で、周りにはたくさんの花が咲いている。
とても丁寧に絵の具で色付けされ、色の濃淡も綺麗で一度見たらずっと心に残る印象的な絵だ。


「覚えてるよ。図工の時間に涼介さんが描いた、将来の夢の絵だよね」


このとき、私たちは席が隣同士だったから、女の子たちから羨ましがられたっけ。
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