愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
お母様が用意してくださった料理はとても豪華だった。
魚介をふんだんに使ったパエリアとブイヤベースは旨味がつまっていて美味しかったし、パプリカとポテトのサラダも彩りが鮮やかで美しく、食卓が華やかだった。

お母様は、お手伝いさんが一緒に作ってくれるし、なにより造り付けのオーブンの使い勝手がいいからよ、なんて謙遜していらしたけれど、どれもお店で食べるような素晴らしい味で驚いた。
お手伝いさんも家族のように馴染んでいて、温かくて素敵なご家族だった。

今日訪問して過ごしたご両親との時間も、もちろん涼介さんとの時間も大切な思い出になったし、なにより大切なものを私はお母様から託された。


「――菜緒、まだそれを眺めてるの?」


帰宅してシャワーを終えた涼介さんが、ソファに座ってアクセサリーケースを両手に持つ私に呆れ口調で言った。


「だって、あまりにも素敵すぎるんだもの」


食事の後、私は月島家に代々伝わる指輪をお母様から譲って頂いたのだ。
深い青色の大粒のサファイアで、周りをダイヤモンドで囲んだようなデザイン。どちらも美しさを引き立て合っているかのようだ。


「綺麗……」


ここに引っ越して来てからは、毎晩窓から眺める夜景に夢中だった私だけど、今夜はこの手の中で輝く贅沢な宝石から目を離せそうにない。

お母様は古いしそんなに高価ではないと仰っていたけれど、非加熱処理のものだそうだ。
これは前にジュエリー好きの美弥子さんから聞いたのだけど、非加熱処理ということは天然で色が濃く、傷も少ない大変貴重なもので値段も高いらしい。


「本当に、私が頂いてもいいのかな」


まるで深海に吸い込まれるように、ブルーサファイヤの指輪をじっくりと見つめながらつぶやく。

するとうしろから伸びてきた手によって、アクセサリーケースごと指輪をひょいっと奪われた。

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