愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
「りょ、涼介さん⁉」
「こんな古いの、無理につけなくていいんだよ」


即座に振り向くと、指輪を取り上げた涼介さんは私が手を伸ばしても届かないように高く掲げている。
その軽々しくぞんざいに扱う様子に、私はうろたえて立ち上がった。


「無理にだなんて! デザインもかわいいし、涼介さんの奥さんとして認めてもらえたんだなって思ったら、頂けてうれしいし」


捲し立てるように早口で言うと、一瞬ピタリと動きを止めた涼介さんが眉を下降させた。


「菜緒は、俺と夫として認めてくれる?」
「え……」


いつになく物思わしげな面差しに、胸がキュッと締めつけられる。


「菜緒」


ソファに座った涼介さんが、棒立ちの私に手招きする。
おずおずと近寄り、私はそばに立った。

人質のように指輪をちらつかせた涼介さんは、自分の膝を目で指し示す。


「ここに……座るの?」


たどたどしく質問すると、涼介さんは答える代わりにニコッと微笑んだ。


「え、なんか……果てしなく恥ずかしいんだけど」


文句を言いながらも、私は涼介さんの膝の上にちょこんと座る。


「指輪を口実に菜緒を捕まえることに成功したな」


待ち構えていたようにうしろからギュッと抱きしめられ、涼介さんは苦しい角度で私の頬にキスをする。


「実家でも言ったけど、俺はずっと菜緒が好きで、いつか自分がマンション建設に携われるくらい出世したら菜緒を迎えにいこうと思っていた」


継ぎ目なく話し、私の左手の薬指に指輪を嵌めた。
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