愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~

「よし、これで完了だな」


私が書き終えた用紙をふたつ折にして、涼介さんは封筒に入れた。


「いつ提出する?」
「俺が出しておくよ。仕事で役所の近くに行く機会もあるし」


ふたりで出しに行きたかったけれど、なかなか時間が合わないし仕方ないよね……。
休みの日でも受け付けてくれるって聞いたけど、今日これから行くっていうのはどうだろう。

涼介さん、昨夜も帰宅が遅かったし、出かける気はないか……。


「じゃあ、お願いするね」


残念な気持ちを悟られたくなくて、なるべく暗くならないよう、心ばかり微笑んでみる。


「これから行きたかった?」


私の作り笑いなど造作なく見透かしていた涼介さんは、ニッと口端をつり上げた。


「でも、疲れてるでしょ? 今日はゆっくり過ごしてほしいし」


テーブルに頬杖をついて言うと、椅子から立ち上がった涼介さんが私の背後に立った。


「じゃあ、菜緒の気持ちに甘えようかな」


伸ばした腕で、うしろから私の体をすっぽりと抱きしめる。


「今日は一日中、菜緒をかわいがってもいい?」


熱い吐息を含んだ低いトーンの声が耳元で響き、背中がゾクッとして私は背筋を伸ばした。


「わ、私が言ったのはそういう意味じゃないんだけど」
「俺が言ってるのはこういうことだけど」


片手で頬を包み込むと、チュッと音を立てて頬に唇を寄せた。
涼介さんの柔らかい髪の毛が耳をなで、くすぐったい。


「休まなくていいの? 涼介さん、最近お仕事ハードだったし」
「もしかして菜緒、わかってないの?」


とぼけたような口ぶりで、涼介さんは私の顔を覗き込んだ。

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