愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
「ああ。毛利菜緒さん」
「は、はじめまして」
ペコリと頭を下げると、女性は私を見定めるかのように頭のてっぺんから爪先まで上下に観察した。
「はじめまして、高塚唯子(たかつか ゆいこ)です」
私は唯子さんの美しさに目を見張った。
お召し物は恐らくハイクラスの京友禅。上質な生地と、繊細で華やかな四季の草花の模様がとても美しい。
動くたびに金色の刺繍がきらめき、格調高い艶やかさは気品に満ちている。
その上、唯子さんは涼介さんとさほど変わらない高身長で、綺麗な艶のある黒い髪を上品にまとめていて、モデルのように顔立ちも整っている。
「唯子とは中高、大学まで同級生だったんだ」
「そうだったんですか……」
涼介さんに説明され、合点がいった。
同級生で付き合いが長いなら、呼び捨てでもおかしくはないか。
そう思って、安心したのも束の間。
「あら、ただの同級生じゃないでしょ」
唯子さんはドリンクを持っていない方の手で、涼介さんを小突くような仕草をした。
「は?」
憮然とした声で涼介さんが返すと、目を細めた唯子さんは涼介さんの反応を面白がるように笑った。
「じゃあまたね、涼介」
「ああ」
涼介さんに軽く手を振った唯子さんは、去り際に私に目配せをした。
とても上品に、小首を傾げて。
涼介さんとの間にはふたりだけのフランク雰囲気が漂っているのに、よそ者の私には、壁がある態度に感じた。
今日会ったばかりの私と付き合いの長い涼介さんとでは接し方が異なって当然だけど、唯子さんが私を見る目がちょっとだけ冷たかったと感じたのは気のせいだうか。
「素敵なお着物だったね」
去ったうしろ姿を見つめ、私はため息交じりにつぶやいた。