愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
「彼女、高塚百貨店のご令嬢なんだ。高塚はもとは呉服屋だったから、和服に精通していて好きみたいだよ」


涼介さんの言葉に心から納得する。
唯子さんの着物姿はすごくよく似合っていて、この会場内で珍しいのもあって振り向いて見ている人もいる。
とても目を引く美しさだし、なにより彼女の素晴らしさは注目を浴びるのをまったく気にしていないというところだ。

歩き方も佇まいも常に堂々としていて、自信に満ち溢れている。
極度の緊張で、ただ涼介さんの隣に身を縮ませて立っているしかできない私とは大違いだ。

気持ちが沈みがちになりながらぼんやり眺めていると、涼介さんの秘書がサッとこちらに近づき、涼介さんに耳打ちをした。


「ごめん、俺ちょっと失礼するから。菜緒はデザートでも食べてて」


涼介さんは立食用の料理が並べられた方向を目で示した。


「あ、はい」


そしてすぐに去って行ったので、よっぽど大切な用なのだろう。
パーティーといっても仕事の一貫のようなものだし、邪魔にならないようにしなくては。

豪華なオードブルが盛られたテーブルの前に来て、私はまずウエイターから飲み物を受け取った。
シャンパンをひと口だけ飲み込む。さっきから喉が乾いていたからもっと潤したいのだけれど、なんだか気が進まない。
軽い目眩がする。人の多さに酔っているのかもしれない。

手汗でグラスが滑るのでテーブルに一旦置こうとしたとき、背後にひと気を感じた。


「紙ナプキン、お使いになったらいいですよ。持ちやすいし手も濡れませんから」


声をかけてきた唯子さんは、紙ナプキンを一枚私に差し出した。


「冷たい飲み物の入ったグラスをテーブルに置くときも、水滴でテーブルや服を汚してしまうので下に敷いたらよいですし」
「ありがとうございます……」


受け取って、私はアドバイス通りにグラスの持ち手に紙ナプキンを巻いた。
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