愛執身ごもり婚~独占欲強めな御曹司にお見合い婚で奪われました~
俺は菜緒の小学生の頃の夢を知っている。
隣の席で、せっせと白無垢姿のお嫁さんの絵を描いていた。
その絵を俺は、あらゆる手段を使って手に入れた。
このために小学生の頃、先生に対し聞き分けのいい優等生を演じていたと言っても過言ではないだろう。
その絵はこっそり実家のクローゼットに仕舞ってある。
菜緒が遊びに来た際に見せて驚かせようかとも思ったけれど、さすがにそこまで執着心が強いのかと引かれるのを警戒して黙っていた。
あの絵はどんなに美しい絵画よりも、優しい彩りに溢れキラキラしていて、どんなに素晴らし芸術作品にも敵わない。
実家に飾ってる高級な絵画より何倍も、俺にとっては大切な、かけがえのない世界に一枚だけの絵だ。
「ふ……っん……」
玄関のチャイムが鳴り、俺は名残惜しいけれど唇を離した。
「来たみたいだ」
とろんとした目で俺を見つめる菜緒は、赤くなった頬を隠すように小さく頷く。
「指輪、どんな仕上がりになるのか今から楽しみだな。紹介してくださった唯子さんに感謝しなくちゃ」
穏やかに微笑んでつぶやいた菜緒に、愛おしい気持ちがこみ上げてくる。
もう一度抱きしめたい衝動に駆られながら、それはまた後でゆっくり堪能するとして、俺は玄関に向かった。
指輪の直しはおよそ三週間かかるらしい。
ジュエリーショップの店長の話を聞きながら、キラキラとした輝く瞳でブルーサファイヤを見つめる菜緒を見て、俺は幸せを噛みしめた。