恋の蛇足
彼が、一人でご飯を食べていることを知ったのは今日みたいに雨が激しい夜だった。
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「先輩もこんなところ来るんですね」
牛丼屋で席を探していたら、彼が声をかけてきた。
違うフロアで働いている後輩。
直接業務上の関わりはなかったけれど、小さい会社だから面識はあった。
それでも顔を合わせても、お疲れ様と挨拶をする程度の関係だった。
「お疲れ様。今日は残業長引いてご飯作る気になれなくて。君も今日は外食なのね」
「今日はというより、今日もですね」
「今日も?」
「僕、だいたい夕飯はここの牛丼なんで」
「一人暮らしなんだっけ」
「いや、実家なんですけど、親は仕事で夜いないことが多いんで」
「あ、そうなんだ?」
あまり突っ込んで聞くのも悪いだろうと思い、じゃあと言って笑って立ち去ろうとすると、彼は私の腕をぐいと掴んだ。
「僕いつも一人なんで、一緒に食べません?」
『一人なんで』という言葉はどういうニュアンスだったのだろう。やっぱり今考えても、寂しかったのだと思う。
『他の人には言ってないし、瞳子さんじゃなきゃ言わない』と照れて笑っていた彼が恋しい。
あっという間に惹かれてしまった。
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「先輩もこんなところ来るんですね」
牛丼屋で席を探していたら、彼が声をかけてきた。
違うフロアで働いている後輩。
直接業務上の関わりはなかったけれど、小さい会社だから面識はあった。
それでも顔を合わせても、お疲れ様と挨拶をする程度の関係だった。
「お疲れ様。今日は残業長引いてご飯作る気になれなくて。君も今日は外食なのね」
「今日はというより、今日もですね」
「今日も?」
「僕、だいたい夕飯はここの牛丼なんで」
「一人暮らしなんだっけ」
「いや、実家なんですけど、親は仕事で夜いないことが多いんで」
「あ、そうなんだ?」
あまり突っ込んで聞くのも悪いだろうと思い、じゃあと言って笑って立ち去ろうとすると、彼は私の腕をぐいと掴んだ。
「僕いつも一人なんで、一緒に食べません?」
『一人なんで』という言葉はどういうニュアンスだったのだろう。やっぱり今考えても、寂しかったのだと思う。
『他の人には言ってないし、瞳子さんじゃなきゃ言わない』と照れて笑っていた彼が恋しい。
あっという間に惹かれてしまった。