恋の蛇足
最初は、ご飯を作ってあげて仕事の相談に乗りながら食事をして本当にすぐに解散した。
何かを期待していた訳ではないけど、本当に拍子抜けするくらい色っぽい雰囲気はなかった。

「次はハンバーグが食べたいです」

そう言った彼は翌週の土曜日も来て、同じような時間を過ごした。

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そんな土曜日の食事イベントが2ヶ月くらい続いて、休みの日は随分くだけて話すようになっていた。

「あ、僕、来週の土曜日は家の都合で来れないです」

「そっか、分かった」

ついがっかりした声が出て目を伏せたら、おでこを少し強く押された。
その勢いで顔を上げると、彼の少し気だるそうな顔がゆっくりと迫ってきて私は目を閉じた。

「残念ですか?」

「うん」

「ほんとに?」

「うん」

「僕のこと、好き?」

ゆっくりと目を開けると鼻がくっつくくらいの距離で彼は止まっていた。
聞きなれないため口に、脳が溶けていく気がした。

「……普通、自分が告白してから聞くんじゃないの?」

気恥ずかしくてそう悪態をつくと、じゃあいいですと言って彼は元の姿勢に戻った。

「そろそろ帰ろうかな」

彼が心なしか冷たくそう言って立ち上がろうとする。私は思わずテーブルから身を乗り出して、先程の彼と同じ姿勢になった。
彼はからかうように、先程の私と同じように目を閉じた。

『私のこと、好き?』と聞くことを求めるでもなく、キスを待ってる訳でもない。
さっきの問いに答えて、という挑発に思えた。
「好き」
思ったより弱々しい声が出て、彼はそのまま目を開けずに、私の頭を後ろから押さえてキスをした。

「僕も好き」

目をつむったままテーブルを横にずらして、彼が私に強く触れた。
夜までそんな風に過ごして、私の作った夕飯を初めて一緒に食べて、また朝まで激しく触れあって、食欲がなくなるほど疲れて朝ごはんは食べずに彼は家を出た。
牛丼を食べる度に、そのキスを思い出すなんて誰にも言えるはずがない。
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