恋の蛇足
だから、その数日後にふと某ファーストフード店を覗いて、彼が他の女といるのを見た時は言い様のない気持ちになった。
不意に彼と視線が重なって、彼は少し照れたように小さく手を振った。
私だけじゃないのかも知れない。
女に何かを断り、にこやかにこちらに向かってくる彼の姿を見て、やっと弾かれるように背を向けた。
「お疲れ様です」
何事もなかったかのような……むしろ喜んでいる彼の声が近付いてきて爆発しそうな嫉妬を感じた。
「今日はハンバーガー、食べてたんだね?」
「はい、牛丼飽きちゃったんで」
飽きちゃった。
何故かその言葉が、自分に向けられたような気がして頭の中を駆け巡る。
「牛丼は食い過ぎましたね。しばらく見たくないくらいです」
一旦満足いくまで食べたらもう終わりか。
『あんなに牛丼が一番と言っていたのに』と苛立って、変な感情だなと思った。
「ここ数日は毎日、ハンバーガー食ってます」
「……ハンバーガーおいしいよね」
「そうですね」
「飽きたら違うもの食べたいもんね」
「まぁ、そうですね?」
「牛丼ずっと食べてたら飽きちゃうよね」
「うーん、もしかしたら瞳子さん勘違いしてるかも知れないけど、さっき一緒にいたのは同じ課の社員ですよ」
「知ってるよ」
「たまたま会ったんです」
「そうだろうなと思ったよ」
もはや彼が他の女とご飯を食べていることよりも、牛丼に飽きてファーストフードを食べていることに憤りを感じている気にさえなった。
「あと、瞳子さんとの関係とは違います」
彼の声が微かに甘くなるのを感じて、胸が締め付けられた。
「……瞳子さんとの関係、って何」
そう口にした瞬間、彼に腕をぐっと引かれて私は反転して胸に顔を押し付けられる。
私は周囲が気になって離れようとしたが、細身の癖に力が強くて窒息しそうになる。
「今日はたまたま会った人ですけど、僕も社会人なんで女性社員と飯食うことはありますよ」
「うん、分かる」
そう答えながらも『それは二人で食べるのも込み?』と聞けなくて胸がズキズキと痛んで、このままでいたい気持ちとどこかに消えてしまいたい気持ちが入り乱れる。
「妬いてます?」
「……いや、」
「妬いてますね。困るんだよなぁ」
恥ずかしくて惨めでどうしようもなくて、私は離れようとして彼の胸をぐっと押し返すと私たちの間に少し隙間が空いた。
「付き合う?」
そう言って彼は一旦私を突き放して辺りを見渡してから、また強引に引き寄せてキスをした。
私の答え、待たないじゃない。
絶対、『イエス』だと確信しているなんてムカつく。
前回会った時のあれは何だったの。
いろんな批判が頭に浮かんだが、どれも恋を知らない少女のような台詞で口にするのは気が引けた。
でも、きっと彼が言うように、さっきの女にはこんなことはしていないのだろうと思った。
都合のいい妄想だとしても誰かを信じるための理由にすれば、それも正しくなる気がした。
「うん」
ここでやっと、私は彼との関係性に名前を手に入れることができた。
不意に彼と視線が重なって、彼は少し照れたように小さく手を振った。
私だけじゃないのかも知れない。
女に何かを断り、にこやかにこちらに向かってくる彼の姿を見て、やっと弾かれるように背を向けた。
「お疲れ様です」
何事もなかったかのような……むしろ喜んでいる彼の声が近付いてきて爆発しそうな嫉妬を感じた。
「今日はハンバーガー、食べてたんだね?」
「はい、牛丼飽きちゃったんで」
飽きちゃった。
何故かその言葉が、自分に向けられたような気がして頭の中を駆け巡る。
「牛丼は食い過ぎましたね。しばらく見たくないくらいです」
一旦満足いくまで食べたらもう終わりか。
『あんなに牛丼が一番と言っていたのに』と苛立って、変な感情だなと思った。
「ここ数日は毎日、ハンバーガー食ってます」
「……ハンバーガーおいしいよね」
「そうですね」
「飽きたら違うもの食べたいもんね」
「まぁ、そうですね?」
「牛丼ずっと食べてたら飽きちゃうよね」
「うーん、もしかしたら瞳子さん勘違いしてるかも知れないけど、さっき一緒にいたのは同じ課の社員ですよ」
「知ってるよ」
「たまたま会ったんです」
「そうだろうなと思ったよ」
もはや彼が他の女とご飯を食べていることよりも、牛丼に飽きてファーストフードを食べていることに憤りを感じている気にさえなった。
「あと、瞳子さんとの関係とは違います」
彼の声が微かに甘くなるのを感じて、胸が締め付けられた。
「……瞳子さんとの関係、って何」
そう口にした瞬間、彼に腕をぐっと引かれて私は反転して胸に顔を押し付けられる。
私は周囲が気になって離れようとしたが、細身の癖に力が強くて窒息しそうになる。
「今日はたまたま会った人ですけど、僕も社会人なんで女性社員と飯食うことはありますよ」
「うん、分かる」
そう答えながらも『それは二人で食べるのも込み?』と聞けなくて胸がズキズキと痛んで、このままでいたい気持ちとどこかに消えてしまいたい気持ちが入り乱れる。
「妬いてます?」
「……いや、」
「妬いてますね。困るんだよなぁ」
恥ずかしくて惨めでどうしようもなくて、私は離れようとして彼の胸をぐっと押し返すと私たちの間に少し隙間が空いた。
「付き合う?」
そう言って彼は一旦私を突き放して辺りを見渡してから、また強引に引き寄せてキスをした。
私の答え、待たないじゃない。
絶対、『イエス』だと確信しているなんてムカつく。
前回会った時のあれは何だったの。
いろんな批判が頭に浮かんだが、どれも恋を知らない少女のような台詞で口にするのは気が引けた。
でも、きっと彼が言うように、さっきの女にはこんなことはしていないのだろうと思った。
都合のいい妄想だとしても誰かを信じるための理由にすれば、それも正しくなる気がした。
「うん」
ここでやっと、私は彼との関係性に名前を手に入れることができた。