隣の席の天宮さん
 三十分もしないうちに生徒手帳とスマホを置き忘れた張本人は警察署につき、なんとか事情を話してくれたようで俺も永遠に感じた拘束からようやっと解放され、二人揃って警察署を後にした。

「私が未熟なばかりに置き忘れてしまったのに、持っていていただきありがとうございます」

「そんな何回も言う必要はない。俺はああしたほうがいいと思ったから行動したまでだ」

 警察署でも二、三回お礼というか感謝され、悪い気分ではないが、こうやって何度も言われては変に気まずくなってしまう。

「ありがとうよりも、……なんだ? 君の名前を教えてくれる方が俺としてもありがたい」

「……私の名前。天宮莉緒。お兄さんと同じ高校に通ってる一年」

 一年の天宮莉緒ね。まさかとは思うけど、天宮の妹ってことはないよな? 聞いたところでなんだって話だし、姉妹だったとしても今聞くことじゃないから聞くのはやめてお

 それになんだこのもやもやは、一枚どころではなく、二枚三枚厚い心の壁が俺と彼女にはあるから、今後話すこともそんな無さそうだし、踏み込んだ話をするべきではない。

「よろしく。えーっと天宮さん」

「呼び捨てで大丈夫です先輩。年上の人にさん付けはちょっとむず痒く感じてしまうので」

「わかった……天宮。これでいいか?」

「……はい。先輩。私、先輩にお礼がしたいのでこの後、時間が大丈夫でしたら私についてきてくれませんか?」

 この後……はうちに帰るだけだからないと言えばないから姉貴に今日うちに帰るか聞いておかないとな。そうじゃないとうちには千夏とクソ親父を二人っきりにしてしまう。

「ちょっと連絡したいところがあるから待ってくれないか?」

「わかりました。そういうことでしたらそこにベンチがあるのでそちらで待っておきますね」

 そう言って駅下に設置されたベンチに腰をかけた。彼女は僕が偽って帰るとは思わなかったんだろうか。そんなことを考えても仕方がない。時間をかけては彼女にも悪い。

『もしもし姉貴?』

『なんだ? 愚弟』

『今日うちに帰る予定とかあったりする?』

『人に聞く前にまず理由を話せと毎回言ってるだろう?』

『そのことについては今度、詳しく話する』

 そう。今事細かに話をしては彼女を待たせてしまうし、何より彼女を家に返すのに夜遅くまで俺の電話で長居させては彼女の親にも迷惑がかかる。

『うちにいるさ。この間電話で今日一緒に千夏と久しぶりに風呂入ろうって話になったから帰ってきてる。陽太。心配することは何もない。お前はお前で用事があるなら心配ないからそっちを楽しめ』

『ふぅ……ありがとう姉貴。今度、お礼するよ』

『買い物に行くからその時荷物持ちな。……じゃあな。千夏を待たせてるから』

 とういうわけで、今度姉貴と一緒に買い物に行くことが決定し、その上で大量に買うであろう荷物持ちも決まった。それと同時に姉貴も姉貴で色々と抱え込んでることもわかった。
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