熄えないで





「そういえば二千花、13時からバレー部のパフォーマンスじゃなかった?友達、出るんじゃない?」

「えっ、もうそんな時間?」



話題を変えるように成川くんにそう言われ、ハッとして時計を見ると、12時45分となっていた。

そんなに時間がたっているとは思わなかった。
各部活のパフォーマンスは人気なので、少しはやく行かないと席は埋まってしまうのだ。



「ごめん、…私もう行かなくちゃ」

「来てくれて嬉しかった。ありがとう」

「…、っ」



これで最後。

成川くんとは、これからはただのクラスメイトになる。




「…今までありがとう」

「俺の方が。ごめんね」




あやまらないで。

成川くんはずっと素敵な人だった。
これからは、同じ温度の愛を返してくれる人と幸せになってほしい。



けれどそれは、今、私が言う台詞ではない。

全部今更だ。私が彼に捧げる言葉のなかに、彼の未来に寄り添うものはひとつもない。


小さく首を振り、私は席を立つ。




「じゃあ、また、ね」




ごめんね、ありがとう​───さよなら。




彼に背を向けて保健室を出る。

私がいなくなった後の保健室で 彼が涙を流していたことは、今もこれからも、私が知ることは無い。

< 114 / 205 >

この作品をシェア

pagetop