熄えないで
「…着いた」
「ですね。本、本当にありがとうございます」
「いいえ」
「じゃあ、また」
「うん。また」
この駅では降りる人が比較的多い。つり革から手を離し、人の波に流されながら電車を降りる。
プシュー…と音を立ててしまったドア。
ただなんとなくドアの方を振り返ると、――バチ、と、車内に居る吉乃くんと目が合った。
パッと右手を小さく上げると、彼は小さく頭を下げた。
その数秒後、吉乃くんを乗せた電車は再び動き出し、ホームに残された私は ふう、と息を吐いて歩き出す。
…まさか、見ているなんて思わなかった。
いや、偶然か。ちょうど吉乃くんもこっちを見ていただけだろう。
私が振り返ったのもなんとなくだ。ただ本当に、なんとなく。
山木 吉乃。
吉野 二千花。
名字と名前が同じ読みなんて、面白い偶然だ。
読んでいた本と求めていた本が同じだったのも偶然。
通学電車が同じなのも、振り返ったタイミングが同じだったのもそう。