熄えないで
02.憂いの共有
いつもと同じ朝。
2両目の前から2つめのドアから電車に乗り込んだ私は、視界の先で軽く手を挙げた彼の元に向かう。
朝の通勤時間帯ということもあり人は多いけれど、満員ほどじゃない。
「二千花、おはよ」
「おはよう」
端の席に座っていた彼がおもむろに立ち上がる。
まだまだ見慣れない長身。
話す時、少しだけ首が痛くなるのが悩みだ。
「座っていいよ二千花」
「え。いいよ。成川(なりかわ)くんが座りなよ」
「えー、じゃあ他に座りたい人に譲ろうか」
今この瞬間に、無駄なやり取りは一切無かった。
なんだかんだ人は皆 優柔不断な生き物だと思っていたけれど、彼と出会ってから、本当に全く迷わない人が存在するのだな、と気付かされたくらいだ。
迷いのない決断力。まっすぐな瞳。
素直で人当たりの良い性格。
───全部、私とは正反対だ。
そういった彼に頷いて、立ち上がった席から少しだけ離れ、ドア付近に2人で立つ。
次の駅で乗ってきたおばあさんが、ついさっき彼が立ち上がった席に座ったので、その様子を見てなんとなくホッとした。