熄えないで
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「今日、ホント楽しかった。ありがとう吉乃くん」
「いえ。俺の方こそありがとうございます」
あっというまに家の前に着いた。
「じゃ」と軽く頭を下げた吉乃くんに、名残惜しさが募る。
「…うん」と返事をするも、心の中ではまだもう少し話していたい、とそんなことを思ってしまう。
「…二千花先輩?どうかしましたか」
私の返事に元気がないことに違和感を感じた吉乃くんが、心配したような声色で私を呼ぶ。
あと1分。いや……10秒でもいい。
まだ帰らないで。
もう少しだけ、ここにいて。
だけど、私と吉乃くんは、恋人同士じゃない。
“友達”のままでは、そんなわがまま言えっこない。
きっと正直に「もうすこしだけ一緒に居たい」と言えば、きっと吉乃くんは優しいから帰らないでいてくれる。
けれど、自分の気持ちをまだはっきりさせていないくせに、吉乃くんの好意を利用するような形はダメだ。
また、ずるいことをしてしまう。
「…、なんでもない」
「…そうですか」
「うん、…じゃあまた───っ」