熄えないで
───何が起きたのかわからなかった。
「、先輩、そういう顔は期待しちゃうからダメですよ」
「よ、し…、」
気付いた時には、私は吉乃くんに抱きしめられていた。
男の子の身体。柔軟剤の香り。吉乃くんの温もり。
今日一番の心臓の音は、この距離では絶対吉乃くんにバレているだろう。
けれど同じくらい、吉乃くんの心臓の音もきこえる。
「…、好きです」
吉乃くんが小さくその言葉を紡いだ後、彼はそっと身体を離し、「、すみません」と謝った。
吉乃くんの温度が、夕方の風にさらわれる。
「…また学校で」
「、…うん」
踵を返す吉乃くんの背中を、私はただぼうっと見つめることしかできない。
彼の姿が完全に見えなくなった時、私は力が抜けたようにその場にしゃがみ込んだ。
「うー…、」
ずるい、吉乃くん。
ぜんぶお見通し。
ぜんぶ、バレバレだったみたい。
楽しい、嬉しい、寂しい。
今日、吉乃くんに対して感じた感情の正体に、私はもう気づいている。
――好きです
───私も、吉乃くんのことが好きだ。