熄えないで
「まじで…急に逃げられたら焦るんでやめてくださいよ」
「吉乃、くん、」
「…、なんで泣いてるんですか」
息を切らして私の前に現れたのは、たしかに数分前、女の子と一緒に居た吉乃くんだった。
ベンチに座って泣いている私の前にしゃがみこみ、下から覗き込むように私と目を合わせる。
眉を寄せ、「二千花先輩?」と首をかしげている。
吉乃くんの声が私の名前を紡いだだけなのに、どうしてかまた涙があふれた。
「っ、う、」
「、」
ぐいっと親指で涙をすくわれる。
恥ずかしさに負けて視線を逸らすと、吉乃くんはおもむろに立ち上がり、私の隣に座った。
いつもと変わらない優しい声。
吉乃くんは何も言葉を発さず、ただただ私の涙が止まるのを待っていた。