熄えないで





「まじで…急に逃げられたら焦るんでやめてくださいよ」

「吉乃、くん、」

「…、なんで泣いてるんですか」




息を切らして私の前に現れたのは、たしかに数分前、女の子と一緒に居た吉乃くんだった。

ベンチに座って泣いている私の前にしゃがみこみ、下から覗き込むように私と目を合わせる。



眉を寄せ、「二千花先輩?」と首をかしげている。

吉乃くんの声が私の名前を紡いだだけなのに、どうしてかまた涙があふれた。




「っ、う、」

「、」



ぐいっと親指で涙をすくわれる。

恥ずかしさに負けて視線を逸らすと、吉乃くんはおもむろに立ち上がり、私の隣に座った。


いつもと変わらない優しい声。

吉乃くんは何も言葉を発さず、ただただ私の涙が止まるのを待っていた。


< 186 / 205 >

この作品をシェア

pagetop