熄えないで
ここが人通りのない場所で良かった。
こんな公の場でキスなんて、勢いと、冷静さが欠けた頭じゃなかったら恥ずかしさに耐えきれなくて爆発していたかもしれない。
「さっき一緒に居た人。……あれ、蒼志の彼女です」
「え?」
「蒼志とデート中だったらしくて。俺、本屋寄ってたんですけど、ほんと偶然出くわしたんですよ。蒼志はさっきちょうどトイレ行ってました」
彼女じゃなかった。
ただタイミングが悪かっただけだ。
吉乃くんがここに追いかけてきてくれなかったら、私は誤解したまま毎晩泣いていたかもしれない。
…て、いうか。
「蒼志くん…彼女いたんだ」
彼女がいたことは知らなかった。
加えて、彼女とデートと言う大事な予定の前にわざわざ図書室によって私に言葉を投げかけてくれたのかと思うと、感謝の気持ちでいっぱいだ。
すると、私の言葉に吉乃くんは「あ、」と思いだしたように声を洩らした。