熄えないで
「俺は来た時から気づいてましたよ、二千花先輩」
「ええ。じゃあ声かけてくれても良かったのに」
「夢中で読んでたから。それ、『消える、』の参ですか」
それ、
吉乃くんの視線は私の左手にある文庫に向けられている。
今、彼と私は同じシリーズを読んでいるわけで、吉乃くんが眺めていた棚には、『消える、』の1,2巻が並んでいた。
もう読み終わったんだ。早いなぁ。
…ってことは、3巻を求めてここにいたということだろうか。
だとしたらタイミングが良かった。
「吉乃くん、はい」
「え?」
「3巻、返そうと思ってたところだから」
そういって本を差し出すと、吉乃くんは「…ありがとうございます」と小さく頭を下げて本を受け取った。