熄えないで
「別れる口実は、既成事実がいちばん有効だと思います。会長の好意に応えられないっていう後ろめたさに勝る既成事実があれば、先輩の本音に、会長は気づく」
「…は、」
「『彼女が最近上の空。1年の後輩と最近なかよくしてるみたい。俺に気持ちは一つも向けられてないかも』。先輩が直接会長に気持ちを伝えるよりよっぽど効率よく別れられると思いますけど」
「よ、吉乃くん、」
「先輩。俺と悪いことしますか?」
誰がこんな展開を予想していたというのだ。
吉乃くんのまっすぐな瞳に捕らわれる。
冗談じゃない、本気の眼。
すぐに断るべきだったということはわかってる。
誰かに見られたらどうしようとか、だいだい吉乃くんは彼女がいるくせにそっちは大丈夫なのか、とか。
思うことはたくさんあって、抱えるリスクもたくさんあるのに。
「…悪いこと、」
「はい」
───私は、何を、思って。
「…、たとえば、どんなこと?」
「キスでもしますか?」
「…、」
「会長と付き合ってるし、別に初めてじゃないですよね」
返事を待たず、唇が重なる。
図書室の静寂がだけが、今この瞬間の目撃者だった。