熄えないで
音もなく重なったそれは、私の知らない温度を連れて来た。
触れ合った3秒が、まるで時が止まったように長く感じる。
――熱い、
それが、吉乃くんの唇が離れてすぐ頭に浮かんだことだった。
伏し目がちの吉乃くんと目が合う。
成川くんとの至近距離は苦手なはずなのに、どうしてか、吉乃くんは嫌じゃない。
「…吉乃くんは、」
「うん」
「彼女と…うまくいってないの?」
勇気を出した一歩だった。
吉乃くんのパーソナルスペースに入ってみたい。それだけの感情で、私は吉乃くんにそんなことを聞いた。
おかしい。おかしいけど、お互いさまだ。
もう、私たちはここでキスをした時点で距離感が歪み始めている。
「うーん…まあ、そういうことにしててください」
「…よくわからない」
「先輩もでしょ」
そういって吉乃くんが笑う。
ドキリ、どうしてかその笑顔に胸が高鳴った。
知り合ったばっかりの後輩。
友達とも言い難い距離。
それはもう過去の話になる。
「…早く別れてほしいです」
ここにある既成事実だけが、私と吉乃くんの関係を表す現実だった。