熄えないで
私はどうしてこんなに話したこともない彼のことを気にかけて居るのだろう。
彼が求めている本を持っていたからだろうか。
私が好きな本を彼が"面白い"と言っていたからだろうか。
'ヨシノ'のことは知らない。
'ヨシノ'に興味もない。
けれど、'ヨシノ'が読みたがっている本はここにある。
「待って下さい、あの、 」
彼らの背中に声を掛ける。
振り向いた2人は、"誰?"とでも言いたげに私を見ていた。
「…消える…、って」
「え?」
「……あなたが読みたがってるのってこれじゃないですか?」
そう言って文庫本を差し出す。
急になんだこいつ、って思われているかもしれない。
図書室では静かにしましょう、って図書担当の先生に思われているかもしれない。
「…私、これあと5分もあれば読み終わるんです。ごめんなさい、会話聞こえちゃって。…時間大丈夫なら残り今読むので、…その、帰らないでくれたら、」
静かな図書室では、声はあまりにも鮮明だ。