熄えないで
「テスト近いですけど、先輩は大丈夫なんですか?」
「え」
「英語とか。苦手って言ってませんでしたっけ?」
…あれ。私、英語が苦手だなんて吉乃くんに言ったことあったっけ。
必死に記憶を巡らせて、吉乃くんと交わしたここ数日の会話を思い出す。
…そういえば、映画が好きって話で、「私は英語が苦手だから洋画はあんまり見ない」って言ったことがあるかもしれない。
けれど、それだけだ。
よく覚えていてくれたなぁと素直に感心した。
「…まあ、大丈夫ではないかな…」
「本読んでる場合じゃなくないですか」
「うー…ん」
それはそうなんだけど、ね。
根本的に勉強はキライだし、英語なんてもう呪文に見えて仕方がない。数学に至っては論外だ。
教えてくれる人もいないし、自力で何とかしなければいけないことはちゃんとわかっている。
現実逃避したい。
テスト勉強からも、向き合わなきゃいけない事柄からも、ぜんぶ逃げ出したい。
「二千花先輩」
吉乃くんの落ち着いた声が図書室に響いた。