泡沫夢幻
それから2か月かけて俺は兄貴の部屋を掃除した。
最初はこの部屋からする兄貴の匂いで
思い出が溢れかえり、5分としてそこにいられなかった。
だんだん現実を受け止められるようになり、
ようやく普通でいられるようになるまでには
1か月かかった。
兄貴の学習机の引き出しの中から大量の便箋が出てきた。
好奇心で真っ白な封筒を1つ手に取り開けてみた。
「っなんだよ、これ」
それは父さんからだった。
何年もあっていないけれど筆跡は何となく覚えている。
確かにこれは父さんの字だ。
「 健康に気を付けてください。
今はまだ帰れない。
さみしくさせて本当にすまない。
つらくても父さんは2人の味方だ。
次の手紙はいつになるかはわからないが
待っていてくれ。
そうだ、写真を送るよ。頭脳明晰な奏
にならきっとわかるはず」
そう書かれた手紙と
父さんと、母さんではない見知らぬ女性が2人で写っている写真が入っていた。
俺はショックだった。
兄貴と父さんが内緒で連絡を取り続けていたことも、
父さんには新しい家族ができていたことも。
ああ、俺は1人だ。
これから先も、ひとりだ。
大切なものはもう作らない。
このとき、はっきりと心に誓ったはずだった。