泡沫夢幻
「やめ」
試験監督の担任の声とピピピッとけたたましく鳴るタイマーの音と共に1年生1学期の期末テスト最後の教科の音楽のテストが終了した。
「はい、後ろから回収して。
終わったら解散。
明日も学校あるんだからハメはずすなよ」
いつにも増して張られた担任のその声が掻き消えるくらいには解放感に満ち溢れた生徒たちの声で教室が賑わっていた。
テスト期間中、日を増すごとにどんよりとしていた教室は一気に活気で溢れている。
「夏休みだー!」
「夏祭りだ!」
あちらこちらからそんな明るい声が聞こえる中、約3名沈んでいる人がいる。
「陽菜はともかくなんで2人まで沈んでるのよ」
そうつっこみを入れたのは俺の席までやってきた佐野さんで、同じく俺の席までやってきた水瀬は朝よりも柔らかな表情で穏やかに笑った。
陽菜と野崎、そして颯太はそれぞれ自分の席で項垂れていた。
「だってみんなと遊べないんだもの…」
最初に起き上がり俺たちのもとへやってきたのは野崎。
テストがんばったのになぁ、と不満気につぶやいた。
「でも仕方ないでしょ、家族は大切にしなきゃ。ね?」
そう諭すように野崎の肩を叩いたのは佐野さん。俺たちの中では水瀬と俺が事故で家族を亡くしていることは触れてはならないこと、それを踏まえた上で俺たちとの約束と家族との約束が被った時は家族を優先させることが暗黙の了解ともなっている。