泡沫夢幻
「もう嫌い!」
「すまんすまん、な?
何でもするから機嫌直してくれないか?」
補習ないからってひどい、とぷくっと頬を膨らませた陽菜を必死になだめているのは颯太。
かれこれ5分ほどこのやりとりを聞いている。
突然「おっしゃ!」と叫んでガバッと立ち上がって「切り替えるぞ!陽菜!」と陽菜の耳元でしかも大声で話すもんだからもうそれは自業自得としか言えない。
みかねた野崎は呆れ顔の苦笑いで
「私もう帰るね?2人に夏休み一緒に遊べないのごめんって伝えて。
まあどうせ明日から終業式までは会えるんだけどね、」
と伝言を残して誰かと電話をしながら帰って行った。
佐野さんと水瀬は野崎に手を振り、
まだ言い合いを続けている2人を呆れながら見守る。
他の生徒たちが次々に教室を去っていく中、沈黙が続く俺たち3人。
「ほんと呆れるわね」
と、最初に口を開いたのは佐野さん。はぁ、と一つため息をついてポケットからスマホを取り出した。
そしてさっきまでとは一転して明るい表情を見せ、ずっと言い合いを続ける2人に
「陽菜?私帰るけどいいの?」
と声をかけた。