泡沫夢幻
自分の家に着くと、既視感のある真っ白な封筒がポストに入っていた。
案の定、「常盤駿様」とだけ書かれたその中からは真っ白な便箋が出てきて、父さんの字で「もうすぐ帰れそうだ」とだけ書かれていた。
その時は父さんが帰ってくることへの喜びで何も気に留めなかったけれど。
今思えば、もっと、ちゃんともうすぐ帰るというその意味を、気にしなければならなかったのに___
後悔しても、遅すぎた。
次の日、いつも通り椿さんのお店へ行くと、薄暗くて、そこには誰もいなかった。
先ほどまでいたのか、いつも雑談をしている机の上にまだ温かいコーヒーが入った椿さんのマグカップが置かれていてた。
だけど、商品の花たちはどこか元気なさげで、昨日とは違う不穏な空気が流れていた。
とりあえずいつものように店内の掃除をし終えて、スマホを見ると椿さんからメッセージが届いていた。
『ごめん、急用で2人とも行けないから。
今日はお店閉めといて』
椿さんからは緊急時用にお店の合鍵をもらっていたので『わかりました』と、そう一言だけ返して"closed"の札を入り口に出した。
ザワザワと胸騒ぎがして、
気がつけば自宅へ向かって駆け出していた。