泡沫夢幻
1冊目は、茜先生と兄貴の交換ノートのようで、その日あった何気ないことや学校での出来事、仲間たち・家族とのこと、日常の一コマが描かれていた。
これといって本能的に、心が求めていることは何もなさそうで、これ以上2人の世界を覗き見するのはよくないと思いノートを閉じようとした瞬間、目に入った2文から目が離せなかった。
「それとお昼に言い忘れてたけど。
俺は真っ先に水瀬ひよりを守るよ」
どういうことだ?
水瀬…ひより、?
その文に書かれた女の子が俺の知る彼女だという確信はないけれど。
ただ茜先生が所属する声楽団の話も書いてあってその流れでその文が書かれていたから、きっと俺が思い浮かべている彼女で間違ってはいないはずで………
考えていても埒が開かないので学校が始まったら茜先生に聞いてみることにしてそのノートを閉じた。
そしてもう一冊はアルバムだった。
これは、俺たち常盤家の家族写真のアルバムで、震えた文字で写真ひとつひとつにコメントが書かれていて、なんとなく、それらは母さんの言葉のように思えた。
最初のページには病院で撮った家族写真が貼られていて、その下には母さんの字で
「奏・駿へㅤわたしは幸せでした」
と書かれていた。