泡沫夢幻
意を決して1ページめくると病室からの風景写真が貼られて、少しよれたそのページから母さんか父さんか、兄貴か、誰かわからないけれど泣いたことが伺える。
「私はもう長くは生きられない。
私がいなくなった後、みんなの記憶に残らなかったとしてもこのノートがある限り私が残り続ける。
これは私の生きた証です」
震えた文字から伝わる強い言葉に、どこか懐かしさを感じて、一滴、ノートに雫が落ちた。
どうやら新しいものからだんだん過去に遡っていくようだ。
懐かしいあの日々を思い出しながら1ページずつめくっていくと、いつだったか、父さんが話してくれた水族館に行った写真のページになった。
そして、俺と見知らぬ女の子とのツーショットの写真。
「神崎悠里ちゃんと仲良くなった駿」
一緒に写ったその女の子はどこか、目鼻立ちが野崎にそっくりなのだ。
「もっと別の方法で出会いたかった」
野崎の言ったその一言が頭によぎり、「神崎」について検索しようと携帯を取り出した。
だけど。
『悠里からあんたに会った話を聞いた』
『それをふまえてひとつ話しておかなきゃいけないことがあるから
夏休み明け保健室で』
『まだ下手に動かないで』
佐野さんから立て続けに送られてきていたそのメッセージの圧に負けて、何もできなかった。