泡沫夢幻
結局勉強せずに寝落ちしてしまったようで、
朝は4時ごろに目が覚めた。カーテンから漏れる朝日が眩しくて、思わず目を細めた。
机の上には昨日開いた課題がそのままになっていて、とりあえず1時間ほど勉強して、集中力が切れてしまった。
学校でやろう。
そう思い立って学校へ行く用意に取り掛かった。
「行ってきます」
誰もいない家にそう残して、返ってくるはずのない「いってらっしゃい」を待つように、一呼吸置いてからドアを閉めた。
いつもより1時間ほど早い外の世界は静かで、穏やかな時間が流れていた。
まだまだ日中は暑いけれど朝晩は心地よい気温だ。
学校に着くとまだ7時で、用務員のおじさんに会った。挨拶と簡単な世間話を交わし校舎に入ると冷たい風が流れていて、教室へと急いだ。
教室に入ると案の定誰も来ていなくて肌寒く感じるけれど、でも廊下よりはましだと思う。自分の席で見直そうと思っていた課題を広げて集中した。
自分が思っているよりも集中していたらしく、ふと耳に入ってきた誰かの「駿くんおはよう」という声にはっと顔を上げるとすでにクラスメイトの7割が教室にいて勉強していた。目の前にはひよりが立って、にこにこと笑っている。
「すごい集中してたからいつ声かけようか迷ったんだよ」
笑いながらそう言ったひよりの話によれば、20分ほど前から彼女はそこに立っていたのだという。
「聞きたいところがあったから声かけるタイミング見計らってずっと見てたのに全く見向きもしてくれないんだもん、びっくりしたよ」
そう言って俺の隣に来るとノートを広げてここ教えて?と首を傾げた。
「わかった!ありがとう!」
目の前にずっと立っていたのに気づかないのはよくなかったな、と少し反省して、その問題について説明するとモヤモヤが晴れたのか、先ほどよりスッキリした声で、そう言って自分の席に帰っていった。