泡沫夢幻
ひよりと別れたのが夏休み明けで。
あれからもう、2か月は経った。
心ここに在らずで、佐野さんに呼び出されて初めてひよりが休んでいる理由を知った。
「言っとくけどあんたのためじゃないから。
あんたが何しようとしてるか大体想像はつくけど私は口出ししない。
だけど、私はひよりのためにあんたに教えてあげるわ。ひよりはどこまでもいい子だから、報われなきゃ、この世界おかしいから。
ひよりは今入院してるわ」
野崎の誘いを断りもやもやしたまま課題をしているとジャージ姿の佐野さんが入ってきて、そう告げた。
「え、、」
なんで、と聞こうとしたけれど
それを言葉にすることはできなかった。
佐野さんは目に沢山の涙を浮かべ、
それでいて、
…笑っていた。
「ひより、階段から突き落とされて頭に強い衝撃を受けて入院してるそうよ」
ふぅ、と一息つき
「その犯人、知りたい?」
と怒りの声を漏らす。
その場から動けずに固まっていると、
「あんたがよく知る人に関係するわ」
と乾いた笑い声をあげ、教室から出て行った。
その"答え"はすぐにわかった。
野崎…約束が違うじゃねえか…
俺と付き合えば誰にも手出さねえんじゃなかったのかよ…
俺と付き合えば、父さん返してくれるんじゃなかったのかよ…
バンッ チッ
誰もいなくなった教室には
俺が机を叩いたその音と、
俺が舌打ちしたその音だけが響いた。