泡沫夢幻
この物語にふさわしい名前を付けるなら、
「駿くん、何してんの~?早く行くよ?」
「ああ、今行くよ」
読みかけの本を閉じ、窓を閉める。
中学1年の春、交通事故で大切で憧れだった兄貴を亡くした。
俺はもう二度と大事なモノを作らないと決めた。
そう決めたはずだった。
だけど高校1年の春、
俺はキミに出会ってしまったんだ。
大切な存在がいるから俺は強くなれる。
4月ももう終わりに近い。
今年も母さんの好きな青いガーベラと
真っ白なアネモネを持って外に出る。
「ほら、早く早くっ!」
雲1つない晴れ空にキミの声が響く。
「今年もきれいに咲くかな」
月下美人の苗を植え終えたひよりが聞いてくる。
「ああ。きっと咲くさ」
運転席のドアを閉め、エンジンをかけながら答える。
この物語にふさわしい名前を付けるなら
「泡沫夢幻」
Fin.