不眠姫と腹黒王子
上着を脱いだ俺を円はキョトンとしながら見ている。
「…おい。今どういう状況か分かってる?」
「え?暑いんでしょ?」
こいつ、本当無自覚すぎ。
俺は深くため息をつき、
脱いだ上着を円に投げつけた。
「った…!」
「それ、貸してやる。」
「??
いらない。」
「いいからもらっとけ。
ちょっとくらい眠れるかもしれねぇだろ。」
「…うん。」
そんなわけない、とでも言いたげな顔をしている。
でも、円は大人しくジャージを羽織った。
うわ、こいつちっちゃ…。
女子の中じゃそんなに小さい方じゃないはずなのに、俺のジャージを羽織ると膝上まですっぽり隠れてしまう。
「また明日ね。」
「…ああ。」
「宮。」
「あ?」
「…ありがと。」
逸らしていた目線を戻すと、
真顔のまま俺を見上げる円の顔があった。
惚れない、1ミリも。
「どーいたしまして。」
1ミリ…
俺が円の頭をぽんっと撫でると、
円は嬉しそうに目を細めた。
円の頭の上の手を、一瞬動かしかけて止まった。
「じゃ。」
円は少し早歩きで女子棟の方向へ歩いていった。
俺は円の頭を撫でた自分の右手を見つめる。
1ミリ
動いた。