不眠姫と腹黒王子
それから放課後まで円と話す機会はなかった。
まぁ別にいつものことだけど。
俺は『みんなの人気者』だし、
円は周りに人がいるとき基本的に近づいてこない。
「猫みてぇ。」
「え?猫?」
「あっ、いやなんでもない。」
帰りのホームルームが始まるまでの時間、クラスメイトとしゃべっていたら、つい脳内の言葉が口に出た。
「ふーん…そういや今日暇なんだよな。
なぁ、宮。今日カラオケにでも…」
「み、宮…」
この声…
すぐに声の方向に振り向くと、
そこには遠慮がちに円が立っていた。
珍しい…
俺の心は少し跳ねる。
「どした?」
俺の気持ちが悟られないよう、爽やかスマイルで尋ねる。
「い、一緒に帰ろ!」
「え…」
円はハッキリそう言うと、頬を少し赤らめた。
俺の心はさらに跳ねる。
そりゃこの前普通に誘えって言ったけど、
こんな直球で、しかもみんなの前で…
「えっ、高山さん!
じゃあ俺らとカラオケ行かない!?」
「カラオケ?」
っ、コイツ余計なことを…
いや、待て待て。
理性的になれ。
せっかく不眠症治って元気になったんだ。
円はもっといろんなやつと関わったっていい。
まぁ円が行くなら俺も…
「いや、いい。
宮と二人で帰りたいので。」
「へ!?」
「んなっ」
瞬間、周囲が騒然とする。
出たっ、感性異常者!!
「おい、宮。
お前ホントに高山さんと何もないんだよな?」
そうこっそり耳打ちされても、
「ねぇよ」
としか…
「ダメ…かな?」
また、上目遣いでそんな悲しそうに聞かれたら…
「いい…けど。」
その瞬間、円の顔はパッと明るくなる。
「ありがと。」
ちょうど担任が入ってきて、円はパタパタと自分の席へ戻っていった。
また無意識に円を目で追う。
羨ましい…
いつも思う。
前向きで、まっすぐで、周りの目なんか気にしない。
「宮…」
何か言いたげにさっきまで話してたやつが俺を見る。
「円とはただの友達だよ。」
嘘。
「カラオケ、また今度行こうぜ。
暇なとき誘うわ。」
また嘘。
「あっ、ああ。楽しみにしてる…」
「悪いな、サンキュー。」
俺は嘘まみれだ。