不眠姫と腹黒王子
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お母さん
聞いてよ。
今日すごいやなヤツに会ったんだ。
性格ブスとか言ってきて、みんなのことも見下してるの。
『ええ!何それ!!
そんなやつグーパンしちゃえ!』
今日は結と仲直りできたんだ。
嬉しかったし、宮のこともちょっと見直しちゃった!
『よかったね、円!』
修学旅行でね、初めて北海道に行ったんだ。
宮は高いところが苦手なんだって。
あと篠原さんっていう子とも仲良くなれてね…
『…』
お母さん、最近眠れないの。
眠るのがなんだか怖いの。
『』
ねぇ、私初めて好きな男の子ができたよ。
お父さんが珍しく朝ごはんを作ってくれてね、
目玉焼きが下手くそだったんだ。
お母さん。
お母さん…
いつも遅くまで働いてくれてありがとう。
ひどいこと思って、ごめんね。
『人には言葉で伝えなきゃ伝わらないよ。』
そうだね、お父さん。
もう遅いね。
もうお母さんに気持ちを伝えることは
できないんだね。
でもさ、結と話して仲直りできた。
お父さんに本当のことを言って、お互いの気持ちが知れた。
私はまだ言葉で伝えられる。
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「好き。」
ああ、そっか。
これだけでよかったのか。
簡単だった。
びっくりするくらい。
そう気づくと、涙が出た。
はっきりと私の想いを伝えられた嬉しさと
こんな簡単なことがお母さんにはできなかった悲しさで。
「宮…
好き…っ」
そう絞り出すようにもう一度言うと、
私の身体は大好きな匂いに包まれた。