不眠姫と腹黒王子



「よ、よかったの…?」
「全然。今日は円と一緒にいたかった。」

そんなことをサラッと言ってのけるのは、さすが。
王子様と噂されるだけある。


そんな人の…彼女…
「えへへ…」

「なんだよ、気持ちわりぃな。」

「宮の彼女って響きが…もう最高。」

「また何言ってんだバカ。」

宮は私の頭をぺしっと叩くと、
口許に手を当てて咳払いした。

あ…これ、照れてる…?

気持ち悪くてもなんでもいい。
「えへへ…」
嬉しくてしょうがないんだもん。


「コホンッ、えーっと…
円、昨日なんで休んでたんだよ。」

私がずっとニヤニヤしていると、宮はそう尋ねてきた。

「ああ、眠れなかったの。」
「えっ…そ、それって…」
「うん。宮にキスされて、でも宮が嫌そうな顔してたから…気になって。」
「ごめん!!」

珍しく宮が大きな声を出して謝ってきたから、
私は驚いて立ち止まった。


「俺、あのとき…円が眠れなくなるくらい悩めばいいって…思った。
だから…俺のせいだ。」

「違うよ。私がしつこかったから…」

「いや…」

宮はきつく唇を噛んでいる。
心の底から後悔している様子だ。

眠れなくなるくらい悩めばいいなんて、
正直思われても私は問題ない。
それくらい宮も私のことで悩んでくれていたっていうことだし。

そもそも考えるのは自由だ。
気持ちは伝わらなければ、相手にとって存在しないのと同じなんだ。

それに宮が私を好きでいてくれるなら、私はずっと快眠できる気がするし。


「いいよ。これから宮が私のそばにいてくれるなら、一日眠れなかったことなんてすぐ忘れる。」
「…ああ。」
「宮って意外と気にしい?
私がいじめられないようにとか気にしてくれるしね。」

私がクスクスと笑いながら言うと、
宮は私のほっぺをつねった。

「そんないいやつじゃねぇっつーの。」
「へへ…心優しい王子様!」

宮は照れたように私から顔を背けると、
強引に手を握って早歩きし始めた。


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