不眠姫と腹黒王子
背後でざわめきが大きくなったのは気づいていたが、俺は歩調を緩めなかった。
「宮…?」
教室から離れたところまで歩いてきて、
円の声で立ち止まる。
「ハハッ、とうとうバレた。」
俺がそう言うと、しばらく円は黙って俺の目を見て、そのうちプッと吹き出した。
「フフッ…言い訳すればよかったのに。」
「やだよ、めんどくせぇ。」
「やっと気づいた?」
憎たらしく笑う円の頭をぐしゃぐしゃにする。
「ちょ…」
「ホント、お前といると処世術も世間体もどーでもよくなる。」
他の全員に嫌われることよりも、
円のことを悪く言われる方が嫌だった。
俺が憧れる…好きな女のことを。
俺は円を守ることで、自分のことも守りたかったのかもしれない。
臆病な俺の悪あがきだ。
「どーでもいいよ。
どーでもいいと思ってる私にさえ、結と平塚くんと宮がいてくれる。」
「そうだな…」
円はいつも正しい。
純粋に正しいことをやってのける。
きっと俺は円のように振り切ることはできないだろう。
でも、その円を守ることで…好きでいることで、ほんの少しでも理想に近づける気がする。
本当の生きやすい世界を作って、
心から信頼できる人たちと過ごせる自分……
「いじめられたら、私がいじめっ子ぶっ飛ばしてあげるよ。」
「アホか。弱っちぃくせに。」
円が穏やかに笑う。
もう不眠症の頃の名残はない。
「そんな落ち込む宮くんを、また吸ってあげましょうか?」
「お前まじバカなことばっか考え付くな。」
円はいたずらっぽく笑うと、
俺の首に腕を回した。