狼の愛したお姫様
───数日前。
叶望は見ていた。
「お父さん、女の人と歩いてた。腕組んで。…お母さん浮気されてるんだよ?!それなのにどうして……っどうしてあんな男なんかと───」
その時、生まれて初めて叶望は母親に手を上げられた。
「お父さんの事を“あんな男”なんて言うのはよしなさい!」
赤くなった頬を抑え、叶望は涙を堪える。
「…バカじゃないの…?」
その震えは痛みからか、怒りからか。
「…じゃあ一生二人で夫婦ごっこやってれば?!」
そこで叶望が母親に会うのは最後となった。