首筋に、甘噛み。


ああやって本能のままに鳴けたら、このくすぶっている身体もどうにか落ち着くんだろうか。

水槽の水をぜんぶ自分にかけたい。

熱くて、痛くて、たまらない。


「……めちゃくちゃにされたくないなら出ていけ!!」 

荒らげた声とともに、三角フラスコが床に落ちた。

ガシャンッと散らばっていくガラスの破片(はへん)。水槽のシルエットが床に反射していて、赤紫色の明かりの中で、ガラスがキラキラと輝いていた。


「やっぱり先輩の瞳は綺麗ですね」

苛立つ俺の身体に溶けていくような、柔らかい声。

正常でいたいのに、(あらが)うことができない。

まるで獲物を狙うように変色している自分の瞳。爪は伸び、凶器のように鋭い牙が見えても、女は緋色(ひいろ)に光る俺の目を()らさなかった。

< 5 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop