首筋に、甘噛み。
「この線を越えて、先輩のところに行きたいです」
彼女の上履きがテープを踏んでいる。あと一歩でも前に出てきたら、そこは俺の領域だ。
イライラしてくる。ギリギリしてくる。
奥歯を強く噛むと、鉄の味がした。
ほしいのは、これじゃない。
「……てめえは耳がねーのかよ。早くここから出て、俺の前から消えてくれ」
「イヤです」
「まじで、本当に、頼むから」
「血を吸わないと先輩は苦しいんでしょ?だったら私のでもいいはずです!私の首筋を噛んでください。それで早く先輩を楽に――」
「うるせーんだよ、吉光」
俺は彼女の身体を冷たい床に押し倒した。長い黒髪が糸のように床に広がる。
頭と心がバラバラで、熱くなっている身体を自分では冷ませない。
早くどうにかしてほしい。
でも誰でもいいってわけじゃない。
「俺がこんなふうになってんのは、お前のせいだよ」