白球と最後の夏~クローバーの約束~
 
高橋君にタイムを測る道具を一式渡すと、わたしは落としたヤカンを拾って水を汲みに行った。

水を汲みに行くときも戻ってくるときも、気分はルンルン。

稜ちゃんがたった今わたしに言ってくれたことが頭から離れない。

現金なやつだよね、わたしって。

稜ちゃんの言葉一つで浮いたり沈んだり、熱っぽいことなんて、もうどっか行っちゃった。


それからわたしは、今度は自分の脇にヤカンを置いて、ベンチにちょこんと座っていた。

学習・・・・だよね、これも。

また稜ちゃんに呼ばれたとき、またまたヤカンをひっくり返すなんてバカなことはしないよ。

ジャージだってそんなに濡れていたわけじゃなかったから、春の午後の陽気でじきに乾く。





───そう。


今は春まっ盛り。

グラウンドを囲むようにして植えられた桜の木は、どれをとっても満開の花ざかり。

高校最後の春が訪れていた。

そして3ヶ月後には夏。

高校野球一色で染まる夏が駆け足でやってくる。

わたしたちの、最後の夏。

頑張ろう、稜ちゃん。
 

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