白球と最後の夏~クローバーの約束~
「昨日のノート、返す。助かったよ、サンキュ」
“ん!”って押しつけるような仕草で、貸していたデータブックを突き出す。
・・・・いつも聞いている稜ちゃんの声じゃないみたい。
この前の“別に”を思い出す。
「あ・・・・うん」
おずおずとノートを受け取るわたし。稜ちゃんの顔がまともに見られないくらい怖い。
「早くしまえよ、それ」
「・・・・」
声も出せないまま、稜ちゃんの言う通りにバッグにしまう。
「帰るぞ」
「・・・・え?」
「“え?”じゃない。帰るつったら帰るんだ」
「・・・・」
少しだけ上げた顔に映った稜ちゃんの表情に、すぐに目を背けてしまう。
・・・・こんなに怒った稜ちゃん、見たことないよ。
稜ちゃんはそう言ったきり、また自転車を押しはじめた。
わたしは、その後を少し離れてついていった。
校門を出て10分くらい・・・・。
それでも稜ちゃんは黙々と自転車を押し続けていたし、わたしも下を向いたまま歩いていた。