白球と最後の夏~クローバーの約束~
「百合ちゃん、せっかくの誕生日なのに稜につき合わせちゃってごめんね」
試合が始まる少し前、稜ちゃんのお母さんがわたしに言った。
顔に出さないようにしてはいたけど、稜ちゃんのお母さんにもわたしがすねている理由が分かっていたみたい。
「いいよ、おばさん」
「そう?」
「うん。稜ちゃんが勝ったら記念になるもん」
「ありがとね」
「ううん」
いくらすねていても、困らせることは言いたくななかった。
稜ちゃんのお母さんはすごく優しい人だから。
1つ大人になったんだもん、わたしもそれらしくしないと、と少し大人振った。
「おっ、始まるみたいだぞ」
そのときわたしのお父さんのワクワクした声がして、わたしたちは一斉にグラウンドに目を向けた。
目をやった先では、北星と四つ葉の面々が並ぶところ。
わたしは自然と稜ちゃんを探す。
でも、わたしたちのほうからは四つ葉チームのメンバーたちの後ろ姿しか見えない。
みんな同じようにしか見えなかったわたしは、このときは稜ちゃんが見つけられなかったんだ。