白球と最後の夏~クローバーの約束~
「たいしたもんじゃねぇよ。ちょっと手のひら擦りむいただけ」
また違う動揺をするわたしに、稜ちゃんは右手を“ほれっ”と見せた。
本当だ・・・・大袈裟に心配するほどの傷じゃなかったな。
そうだよね。
“もしものこと”が本当に起きていたら、今ごろ大騒ぎになっているはず。
それに、わざわざ部室になんて来るわけないし。
・・・・でもまぁ、早とちりでよかったかな。そう思っておこう。
ほっ。
「今、薬箱取ってくるね。座って待ってて?」
「おぅ、サンキュ」
安心したわたしは、そう言って薬箱が置いてある棚の上に手を伸ばした。
でも・・・・あれっ? 届かない。
もしや・・・・誰か使った!?
背伸びをしても腕をうんと伸ばしてみても、ピョンピョン跳ねてみても、あとちょっとのところで届かない。
“じゃあ、なんでこんなところにわざわざ置くの?”
定期的に部室を片付ける本人ですら、すごく疑問に思う。
だけど、そこしか置く場所がないし、机に置いていたら誰かに引っくり返されそうだし。